山そのものが神である場所。

分岐した枝を持つ御神木の千十檜 熊野未踏域アーカイブ

世界遺産・熊野古道の傍ら、和歌山県内の集落に守られてきた聖域の記録。kumanokodonetが山の神「大山祇尊」を祀る御神木と、土地に根付く信仰を描く。

集落の御神木

数年前、SNSでとある檜の写真を見かけた。
なんとも個性的な形をした檜だった。
それ以来、ずっと気になっていたその檜に、ようやく会いに行くことができた。

分岐した枝を持つ御神木の千十檜

数年越しに対面したその檜は、とある集落の小高い山の上にあった。
四方八方に枝が分かれたその姿は、まるで山全体の生命力を一身に集めているかのようだ。

千十檜の根元にある山の神の祭壇

そんな檜の根元にある祭壇には「大山祇尊(おおやまつみのかみ)」と彫られた石が置かれていた。
山の神様として知られる存在だ。
祭壇や紙垂の状態を見ると、今も大切に手入れされていることが伝わってくる。

大山祇尊と削り花の風習

ここに祀られている山の神は女性で、非常に嫉妬深いと言い伝えられている。
そのため、お供え物には独自の作法がある。

供えられた木製の「削り花」

今も祭壇に並ぶ「削り花(けずりばな)」は、そんな往時の信仰を色濃く残す象徴だ。
木を削り出して作られたこの奉納品は、男性のシンボルを表現している。
嫉妬深い女性の神を鎮めるため、この土地では今も変わらず、男性の象徴を捧げ続けているのだ。

かつては、神様の機嫌を損ねないよう、あえて不恰好な魚である「オコゼ」を供えていたという。
美しい魚を供えると、神様が嫉妬してしまうからだ。
現在ではその風習こそ簡略化されたが、この「削り花」の存在は今も失われていない。

古くは女人禁制だったこの場所も、今では地域の女性たちも含め、全員で守り継がれている。
現代の感覚では首をかしげてしまうような古い慣習も、この地域の「敬意の形」なのだろう。

集落の裏山と山の神

それにしても、この場所に辿り着くまでにはずいぶん苦労した。

マイナーな場所ほど「人に聞かずに自力で探す」ことを信条にしているが、今回は早々に諦めることにした。それほど、この場所は集落に溶け込んでいた。
バスの運転手に尋ねても、「聞いたことがない」と言われる始末。

集落をあてどなく歩き回ること一時間ほど。
一軒の家から出てきた方に思い切って尋ねてみると、なんと、その方の家の裏山だという。

森から集落へ続く下り道

山の禁忌と信仰の形

実はここ、熊野古道のすぐそばにある。
多くの人が行き交うメインルートのすぐ外れに、これほどひっそりとした、それでいて濃厚な信仰の形が残っている。

「祭りの日は、絶対に山に入ってはいけない。その日、神様は山の木を数える。もし山に入れば、人間も木の一本として数えられ、帰ってこれなくなるから」
この山にはこんな伝承まで残っている。

「木に感謝する」ということ。
現代人が忘れてしまった尊い精神を、この檜は今も見守り続けている。

山の神(大山祇尊)の基本情報

所在地
和歌山県内、熊野古道の傍らの集落裏山
御祭神
大山祇尊(おおやまつみのかみ / 嫉妬深い女性の山の神)
御神体
千十檜(せんじゅうひのき / 枝が複雑に分岐した檜)
例祭日
11月7日(この日は山に入ると「木」として数えられるため入山注意)
アクセス
集落に溶け込んだ「入り口」を発見できれば徒歩5分(ただし発見まで時間を要する場合あり)
信仰の形
削り花(男性のシンボル)やオコゼを供える独特の風習。かつては女人禁制だったが、現在は集落全体で守り継がれている
備考
「木に感謝し、労働に感謝する」という土地の暮らしに根ざした聖域。kumanokodonetが写真で捉えたのは、数年越しの想いで辿り着いた、その「感謝の形」そのものである
問い合わせ先
集落の平穏を願う住人の想い、あるいは山の神との静かな約束

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