那智勝浦町天満(Tenma, Nachikatsuura):天満天神社例大祭、古座流獅子舞とお弓神事の記録
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町天満、線路沿いの高台に鎮座する天満天神社にて執り行われる例大祭の記録。2月21日の宵宮から始まり、町内約100カ所の事業所を巡る「地下回し(じげまわし)」から、22日の本宮における古座流獅子舞奉納、そして直径約2メートルの的を射抜く「お弓神事」へと続く。天満交友会の若衆や女性たちが奏でる笛の音、そして1斤の食パンが宙を舞う熱狂の餅まき。kumanokodonetは、伝統の誇りと地域のユーモアが共生する、この地特有の祝祭の空気をアーカイブする。
那智勝浦町、天満。冬の青空の下、日の丸が翻る天満天神社の境内は、一年に一度の活気に包まれる。
古座流の獅子舞が舞い、直径約2メートルの的を射抜くお弓神事の音が響く。この地で生きる人々が、世代を超えて受け継いできた天満の祭り。
kumanokodonetが目指すのは、祭りの記録ではなく、数十年後もこの祭りの光景を伝えられる、未来へのアーカイブ。
朝の光に包まれる天満天神社

那智勝浦町天満。線路沿いの道から石段を上がった先に、天満天神社の境内が広がる。
例大祭の朝、参道の入り口には祝祭の日の丸が掲げられ、澄み渡った冬空に誇らしく翻っていた。

石段を歩む神職の背中を、冬の柔らかな陽光が照らし出す。注連縄の紙垂越しに差し込む光が、神域へと続く道筋に穏やかな色彩を添える。

境内には、クスノキとホルトノキが根元で一体となった巨大な御神木がそびえ立つ。互いに寄り添い、抱きかかえ合うようなその生命力溢れる姿は、古くからこの地を守り、人々の信仰を集めてきた産土神(うぶすながみ)の象徴のようだ。

伝統を背負う者たちの決意

本殿の前では、獅子舞奉納やお弓神事を前に、天満交友会の男たちが神職によるお祓いを受けていた。大幣(おおぬさ)が振られる厳かな空気の中、彼らの表情には、地域の伝統を継承する者としての静かな落ち着きが宿る。

天満の町から境内の坂を上ってくる獅子舞の一行。



宮司から神酒を授かる参列者たち。これから始まる神事を前に、身を清め、神からの力を授かる一瞬の静寂。

その直後、伝統の青い装束に身を包んだ射手の顔には、仲間と語らう晴れやかな笑みが溢れた。


厳しい儀式の合間に見せる、等身大の表情。こうした地域の絆が、天満の祭りを今日まで繋いできたのだろう。

境内に響き渡る古座流の音色

神事を終えた一行は、獅子舞を乗せた山車(だんじり)とともに、次なる舞台である神社そばの空き地へと移動を開始する。

移動の最中も、天満交友会の若衆が刻む太鼓の響き、青い法被を纏った女性たちが奏でる篠笛の澄んだ音色が鳴っている。


空き地の隅では、咲き始めた紅梅の蕾が春の訪れを告げていた。
直径2メートルの的を見据える一矢

神社そばの空き地。ここは、先ほどまでの厳かな社殿とは打って変わり、地域の熱狂がダイレクトに渦巻く場となる。

ブロック塀に手をかけ、身を乗り出すようにして獅子舞を見つめる観客の子供たち。その背中越しには、日の丸の扇子を広げて勇壮に舞う獅子の姿。

高く掲げられた奉納幟(のぼり)と緑を背景に、社殿を離れた生活の場で繰り広げられる伝統芸能は、より一層の躍動感を放つ。

獅子舞の調べに合わせ、無我の境地で太鼓を打ち鳴らす男性。青い法被を纏い、バチを振るうその迫真の表情からは、祭りの鼓動がダイレクトに伝わってくる。

やがて、空き地に設けられた射場(しゃじょう)に、伝統の青い装束を纏った四人の射手が入場する。それまでの賑やかな空気は一変し、直径約2メートルの的を前に、刺すような緊張感が漂い始めた。

二人の射手が並び、弓を構える。大きくしなる弓を引き絞り、全神経を的に集中させるその姿は、天満に受け継がれる武芸と信仰の力強さを物語っている。

静寂の中、放たれた一矢が的を射貫くたび、周囲を取り囲む観衆からは大きな歓声が起こる。


祭りの最中、その光景を見つめる子供たちの姿もあった。お揃いのボーダー柄を着た姉弟。背景に置かれた的の円紋と、彼らが纏うボーダーの直線が、モノトーンの対比となって不思議な構成美を描き出している。


厳かな神事の合間に見せる、射手たちのふとした笑顔や、道具の状態を丁寧に確認する所作。

空き地という日常の空間が、彼らの立ち振る舞いによって、歴史を紡ぐ神聖な場へと昇華されていた。






空を舞う鳶と熱狂の餅まき

お弓神事が佳境を迎える頃、那智勝浦の空には数羽の鳶(トビ)が優雅に円を描いていた。
祭りの賑わいと神事の緊張感を見守るかのように旋回するその姿が、天満天神社の神域に漂う自然の息吹を感じさせる。



最後の一矢が放たれ、伝統の大役を完璧に遂行した射手の表情には、自信と誇りが滲んでいた。

期せずして同時に装束を整える二人の射手の姿は、長年の阿吽(あうん)の呼吸を感じさせ、奉納を終えた直後の清々しい緩和を象徴している。

例大祭の最後を飾るのは、和歌山の祭りには欠かせない「餅まき」だ。高台から放たれた白い餅を求め、笑顔で手を伸ばす地域の人々。

天満交友会によって投げられるのは、通常の丸餅だけではない。直径10cmを超える大判サイズの餅や、時には食パンまでもが宙を舞う。
「こっちまで届いてへんで~!」と餅を求める声が上がり、住民たちが押し寄せ、会場は最高潮の賑わいを見せる。神事を終えた射手や役員たちも、住民と一体となって一年の無病息災を願った。

朱色の玉垣に囲まれた斎場(さいじょう)には、神事の余韻が静かに漂う。

傍らでは、逆光に透ける可憐な梅の花が、那智勝浦に訪れた春の柔らかな光を伝えていた。
KUMANO Historical Shot:宵宮の記憶

kumanokodonetが記録したのは、本宮の光景だけではない。
2024年の宵宮、天神社の拝殿で奉納された獅子舞の記憶もまた、この祭りのアーカイブには欠かせない。

拝殿に浮かび上がる獅子頭のクローズアップ。

激しく旋回する獅子の動きをモノクロで捉えると、天満交友会が継承する「古座流」の荒々しさがより強烈に際立つ。

夜の天神社に響く笛の音に合わせ、神と人が一つの空間で夜を共にする、神聖な空気がそこにはあった。

また、宵宮の夜から翌日まで行われる「地下回し(じげまわし)」では、獅子舞の一行が町内の商店や事業所を巡り、商売繁盛を祈願する。

街灯に照らされた路上で舞う獅子。それを見守る保存会のメンバー。
伝統を支える者たちの強い絆と、地域住民の生活圏に神聖な空気が混じり合う瞬間。
過去から現在、そして未来へと、天満の祭りはこうして紡がれ続けていく。
天満天神社(那智天満)の参拝情報
- 所在地
- 和歌山県東牟婁郡那智勝浦町天満308
- 例祭日
- 2月25日(直前の日曜日に斎行)
- 特殊神事
- お弓神事(例祭日に併せて奉納)
- アクセス
- JR紀勢本線「紀伊天満駅」より徒歩約1分
- 問い合わせ先
- 0735-52-1646(勝浦八幡神社 ※本務社)

