和歌山県那智勝浦町の熊野那智大社にて、毎年7月14日に執り行われる「那智の扇祭り (なちのおうぎまつり)」。
「那智の火祭り」の通称でも知られ、日本三大火祭りのひとつに数えられる同社の例大祭。国の重要無形民俗文化財に指定されている。
神仏分離以前の那智山修験の歴史を色濃く残す神事であり、高さ約6mの扇神輿12基を御本社から飛瀧神社 (ひろうじんじゃ) へと渡御する際、重さ最大約50kgの大松明12本が参道の石段を乱舞し、その炎で扇神輿を清める。
境内で奉納される那智の田楽 (ユネスコ無形文化遺産) や大和舞、御田植式をはじめ、御火行事から扇神輿還御祭に至る当日の神事および奉納演舞の全容。
神事日程 (スケジュール)
- 御本社大前の儀
- 熊野那智大社の御本殿前にて神饌を供え、国家安泰を祈願する儀式。
- 大和舞・巫女舞
- 特設舞台にて地元の小学生 (市野々小学校児童) による稚児舞の奉納。
- 那智の田楽
- ユネスコ無形文化遺産。室町時代より伝わる古式に則った伝統演舞の奉納。
- 御田植式
- 拝殿前にて牛頭や農耕具を持った氏子が田植えの動作を演じる農耕神事。
- 扇神輿渡御祭
- 十二基の扇神輿に神霊を遷し、飛瀧神社への渡御が出発する。
- 伏拝扇立神事
- 伏拝にて第一扇から十二扇までの扇神輿を順次立て起こして飾る。
- 御火行事
- 飛瀧神社参道にて十二本の大松明に点火し、乱舞する火で扇神輿を迎える。
- 扇褒神事
- 御瀧本にて神職が打松を用いて神輿の神鏡を打つ古伝の儀礼。
- 御瀧本大前の儀
- 飛瀧神社の斎場に扇神輿を奉安し、神饌を供えて行う神事。
- 御田刈式
- 御瀧本にて鎌を持った氏子が田刈歌に合わせて稲刈りの動作を演じる。
- 那瀑舞
- 日の丸の扇を持った氏子が那智の滝に向かい、御瀧御幸の歌に合わせて舞う。
- 扇神輿還御
- 御瀧本での神事を終えた十二基の扇神輿が熊野那智大社御本社へ向けて出発する。
- 扇神輿還御祭
- 御本社に帰着した扇神輿の前で昇神の神事を行い、一連の例大祭が終了する。
大和舞・巫女舞



11:00。熊野那智大社の特設舞台にて、地元の市野々 (いちのの) 小学校の児童9名による「大和舞 (やまとまい)」および「巫女舞 (みこまい)」が奉納される。
大和舞は、少年少女によって舞われる稚児舞。演目は、那瀑の歌を唱える「斎主舞 (さいしゅまい)」、大直日の歌を唱える「巫女舞」、有馬窟および花窟の歌を唱える「沙庭舞 (さにわまい)」の三曲で構成される。装束を纏った児童が、古伝の神楽歌に合わせて舞を披露する。
那智の田楽


11:30。特設舞台にて、国の重要無形民俗文化財であり、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている「那智の田楽 (なちのでんがく)」が奉納される。
室町時代から伝わる古式をそのまま継承する伝統芸能。演者は、編木 (びんざさら) 4名、腰太鼓 4名、シテテン (小太鼓) 2名、笛方で構成され、全21節に及ぶ曲目が順次演じられる。所作や衣装、使用される楽器に至るまで、伝統的な様式が厳格に守られている。
全曲目を終えるまでの所要時間は約40分間に及ぶ。

2026年の境内には、俳優の原田龍二 氏の姿もあった。
御田植式


12:15。熊野那智大社の拝殿前にて「御田植式 (おたうえしき)」が執り行われる。
拝殿前の境内に茣蓙 (ゴザ) を四角に敷き詰め、水田に見立てた区画にて農耕の模擬動作を行う神事。木製の牛頭 (ぎゅうとう) を被った牛役をはじめ、カイガやエブリなどの農耕具を持った氏子が、笛や太鼓、田植歌に合わせて茣蓙の上を巡る。
式中、牛役の氏子が牛の鳴き声を真似ながら参拝者に近づき、場を沸かせる場面も見られる。

続いて、作柄の検分役を務める田長 (たおさ) が軍配を手に取り、茣蓙の上を周回する。田長が「千年万年、アッパレ、アッパレ!」と声を上げると、周囲の参拝者もこれに唱和し、五穀豊穣と地域の繁栄を祈願する。
扇神輿渡御祭

13:00。熊野那智大社の御本殿前にて「扇神輿渡御祭 (おうぎみこしとぎょさい)」が執り行われる。
降神の儀を経て、十二基の扇神輿に神霊が遷される。


社紋入りの鉢巻と、波や雲間に龍を描いた着物 (通称・蛇の着物) を着用した扇指 (おうぎさし) によって担ぎ上げられた扇神輿は、那智の滝を祀る別宮・飛瀧神社への渡御へと出発する。

石段を下りた一の鳥居付近で扇神輿を次々に立てる。

渡御の行列は、子の使 (ねのつかい) を先頭に、前駆神職、馬扇、伶人 (れいじん)、大松明、扇神輿、神職、総代、随員で構成される陣列を整え、飛瀧神社への参道を進む。
御火行事


14:00。飛瀧神社の参道にて、那智の扇祭りの通称である「那智の火祭り」の由来となる「御火行事 (おひぎょうじ)」が執り行われる。
これに先立ち、扇神輿を途中まで迎えに行くため、黒いカラス帽を冠った神職によって火が点じられた「使の松明 (つかいのたいまつ)」が放たれる。一・二・三の使が御瀧本へ帰着すると、使役と使受け役は松明の火付場に向かい、大松明に点火する。
檜の割板で作られた直径約44cm、高さ約1.34m、重さ最大約50kgに達する12本の大松明へ順次火が移されると、炎を上げた大松明を抱えた白装束の氏子たちが御瀧本の参道石段を上り、渡御してきた扇神輿を迎える。



「ハーリャ、ハーリャ」という掛け声が響く中、氏子が口に含んだ水を炎に向かって吹きかける様子も見られる。これは激しい炎による大松明の損壊を防ぎ、火勢を制御して安全を確保するための処置である。



大松明はその強い火の勢いで扇神輿を清めながら、順次円を描くように旋回して石段を下り、先導を受けた扇神輿とともに御瀧本へと引き揚げる。


十二基の扇神輿は那智の滝の姿を表しており、熊野那智大社に祀られている神々が年に一度、扇神輿に乗って那智の滝へと里帰りする様子を表している。
御田刈式・那瀑舞

14:50。飛瀧神社の御瀧本にて「御田刈式 (みたかりしき)」が執り行われる。
熊野那智大社拝殿前で行われた「御田植式」に一連する神事であり、稲の収穫を意味する儀礼。氏子が鎌を手に持ち、笛や太鼓に合わせて田刈歌 (たかりうた) を歌いながら巡り、稲刈りの動作を演じる。

14:55。飛瀧神社の御瀧本にて「那瀑舞 (なばくまい)」が奉納される。
日の丸を描いた扇を持った氏子が那智の滝に向かって並列し、笛の音に合わせて「御瀧御幸 (おたきみゆき) の歌」を歌いながら舞を披露する。
歌には「けふのでましの あなあら貴と 瀧の流れも さらさらと 塵も残さず 神風ぞ吹く」という言葉が込められており、神々が御瀧へと渡御されたことへの感謝と祈りを表現する。
扇神輿還御・扇神輿還御祭

15:00。御瀧本でのすべての神事を終えた十二基の扇神輿は、飛瀧神社を出発し、熊野那智大社の御本社への還御 (かんぎょ) を開始する。

15:30。石段の参道を上り、御本社の御本殿前に帰着した扇神輿が再び飾り立てられる。「扇神輿還御祭 (おうぎみこしかんぎょさい)」が執り行われ、神霊を元に戻す昇神 (しょうしん) の神事をもって、一連の那智の扇祭りの祭典が終了する。
宵宮




例大祭本祭の前日となる7月13日の宵宮では、17:00より「宵宮祭 (よいみやさい)」が執り行われる。
19:00からは熊野那智大社境内の特設舞台にて、篝火のもとで大和舞、巫女舞、那智の田楽が順次奉納される。

舞が奉納される19:00から20:30頃までの時間帯には、別宮・飛瀧神社の那智の滝にてライトアップが実施される。
那智の扇祭り アーカイブ (2019年〜)








熊野那智大社の基本情報 (アクセス・参拝データ)
- 所在地
- 和歌山県東牟婁郡那智勝浦町那智山1
- 御祭神
- 熊野夫須美大神
- 例祭日
- 7月14日 (那智の扇祭り)
- アクセス
- JR紀勢本線「紀伊勝浦駅」より熊野御坊南海バス「那智山」行きで約30分、「那智山」バス停下車、徒歩約15分
- 駐車場
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あり (大社社務所下駐車場:約30台。神社防災道路通行料800円が必要。または那智山周辺の民間駐車場を利用)
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- 参拝時間
- 6:00〜18:00
- 備考
- 那智の滝を御神体とする飛瀧神社も同社の別宮。
- 問い合わせ先
- 0735-55-0321
二河の火祭り | 三光山金剛寺 例祭
和歌山県那智勝浦町の三光山金剛寺にて、毎年8月23日に執り行われる「二河の火祭り」。
本堂での採火から裏山での松明投げ、祭礼終了後の境内の様子まで、当日の経過を記録。
お燈まつり | 神倉神社 例大祭
和歌山県新宮市の神倉神社にて、毎年2月6日に執り行われる「お燈まつり」。
早朝の海中みそぎから三社参り、大松明の行列、538段の石段を駆け下りる上り子の姿まで、当日の全容を記録。




