
今年もあいもかわらず桑ノ木の滝を撮影していた。
森の中、たった独り、見慣れた光景のシャッターを切っていく。
桑ノ木の滝をよく知らない人は、人気の観光地だと思っているかもしれないが、川のせせらぎと森のさえずりしか聞こえない場所だ。
見慣れたはずの光景の奥に、人影が見えた。

森の間を抜けて歩いてきたのは一人の若い女性。
熊野の森を歩き尽くしてきた自負があるが、この森の中で女性がたった一人で歩いてくる光景に出会ったのは初めてかもしれない。
迷いのない足取りで歩くその静かな強さに、思わずたじろいだ。
近づいてきたその顔に見覚えがあった。 地元の熊野新聞で、何度か目にしていたその人は、数ヶ月前、新宮市の地域おこし協力隊として着任された方だった。
氏は新宮市のPR活動の一環として、SNS用の素材撮影に訪れたという。
話を伺うと、地域おこし協力隊という立場は一般的な公務ではなく、自らのクリエイティビティを武器に動く、いわばフリーランスに近い立場なのだと知った。
驚いたのは、会話を重ねるほどに、目指している“場所”が重なっていることだ。
「地域の新たな魅力を発信したい」「映像という手段で残したい」。
氏が言葉にするビジョンは、kumanokodonetがこの地で写真を撮る理由と、あまりに深く共鳴した。
かつて、元恋人が「映画を撮りたい」と言ったことがきっかけで手にした映像用のカメラが、巡り巡って、新宮市の未来を切り拓くかもしれない道具としてリンクしていく。
それ自体がまるで映画のようだ。
氏の前職が映像制作であったことや、編集ソフトまで使いこなすクリエイターであることは大きな刺激だ。
新宮市のPRに協力することが、同時にkumanokodonetの表現としても残る。
これほどまでに純度の高い「Win-Win」の関係が、まさかこんな森の奥で結ばれるなんて。
独りでいる時間を大切にしているが、クリエイティブなものを創ろうとする人との対話は、独りの時間よりも尊い。
気づけばこの新宮という土地をどう撮っていくかという計画に、花を咲かせていた。
この大自然の中で、これほどまでのクリエイティブな出会いがある。
やはり熊野は、なにかを「引き寄せる」不思議な“気”に満ちている。

2026年、この熊野で何かが始まる。そんな予感がしている。
桑ノ木の滝は、和歌山県新宮市相賀にある日本の滝百選の一つ。 熊野地方を流れる高田川の支流、桑ノ木渓谷の奥深くに位置している。 落差約21メートルの直瀑を囲むのは、深い森林と苔むした岩盤、そして絶えることのない水の流れ。 過度な整備がされていないからこそ、熊野の原生に近い自然環境がそのまま残されている場所だ。
今回の出会いは、この静寂に包まれた滝へと続く道中で訪れた。 一見すると隔絶された森に見えるが、ここには表現を志す者が引き寄せられる、目に見えない“気”が存在しているのかもしれない。
本作は、和歌山・三重にまたがる熊野地方を拠点にする芸術写真家 kumanokodonet によって記録された。 かつて新宮市のフォトコンテストにおいて、この桑ノ木の滝を捉えた作品で入選した経験を持つ。 その時から今に至るまで、熊野に流れる「その瞬間の空気」をカメラで記録し続けている。
現在、こうした熊野の風景の中で、共に新しい表現を模索できるモデルや表現者を募っている。 今回のようなクリエイティブな共鳴の出会いは、作品を次の次元へと押し上げる。 詳細は「モデル募集」のページを参照してほしい。

