あぁ、もう何度訪れただろう。
通い慣れた道すがら、そんなことを呟く。

桑ノ木の滝は、アクセスの良さもあって、風景撮影にもポートレート撮影にも、よく足を運ぶ場所のひとつだ。
気軽にリフレッシュできる場所として気に入っているが、台風の影響で、道中が荒れていることも少なくない。


倒木が続く遊歩道を見ると、自然の力を思い知らされる。
自分が帰郷した頃は、新宮市が整備に力を入れてまだ間もない時期だったのか、木道もとても綺麗だった。

贔屓目なしに言っても、「森の天使が舞い降りてきそう」な道だったと思う。
「ここは熊野の仁淀川と呼ばれているんだよ」と、誇らしげに話してくれた高齢の男性は、今も元気にしているだろうか。

駐車スペースから遊歩道を15分ほど歩くだけで、「日本の滝100選」にも選ばれているこの滝に辿り着ける。
熊野の自然には、感謝するほかない。

ちなみに道中には、ハート型に見える切り株もある。
桑ノ木の滝は、帰り道も楽しい。
道は荒れていても、この森に満ちた空気が失われることはない。





川にかかる橋、景色見える切通し、美しい水質。
どれもがこの場所らしい光景だ。

出口へ続くこの小径が、とても絵になる。
来るたびに、ついシャッターを切ってしまう。

桑ノ木の滝に来ると、あの日のことを時々思い出す。
写真家を志す女性二人と、女優志望のモデル一人を案内した日のことだ。
ここでのポートレート撮影を終えても、まだ撮影し足りず、もうひとつ別の場所へ向かった。
だが、撮り足りていなかったのは自分だけだったらしい。
次の場所に着いても、彼女たちはシャッターを切らなかった。
モデルに指示を出し、撮影していたのは結局、自分だけ。
撮影開始から、まだ三時間ほどしか経っていなかった。

それ以来、誰かと写真活動をすることは減った。
それでも、この熊野には同じ熱量で向き合える誰かが、いつか現れる気がしている。

桑ノ木の滝は、和歌山県新宮市相賀にある日本の滝百選の一つ。 熊野地方を流れる高田川の支流、桑ノ木渓谷の奥深くに位置している。 落差約21メートルの直瀑を囲むのは、深い森林と苔むした岩盤、そして絶えることのない水の流れ。 過度な整備がされていないからこそ、熊野の原生に近い自然環境がそのまま残されている場所だ。
この場所には、水系や地形、そして森の生態系が絡み合う、熊野特有の濃密な空気が漂っている。 光の差し込み方や水の飛沫一つひとつに、この土地が持つ時間の積み重なりが感じられる。
本作は、和歌山・三重にまたがる熊野地方を拠点にするフィルム写真家 kumanokodonet によって撮影された。 かつて新宮市のフォトコンテストにおいて、この桑ノ木の滝を捉えた作品で入選した経験を持つ。 その時から今に至るまで、熊野に流れる「その瞬間の空気」をフィルムカメラで記録し続けている。
現在、こうした熊野の風景の中で、共に新しい表現を模索できるモデルや表現者を募っている。 詳細は「モデル募集」のページを参照してほしい。


